物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。
その日の午前中、俺は事務所で領収書の整理をしていた。
探偵業というのは、地味な作業の積み重ねだ。聞き込み、記録、書類仕事——派手な場面はほんの一瞬で、あとはひたすら地道な確認作業が続く。

そこに聞き慣れた足音が近づいてきた。
「コーキさん! うまい話があるんすけど、聞いてもらえますか!」
ドアを開けた瞬間から、ケンタの目が輝いていた。
——まずい。この顔は、まずい。

■ ケンタの「事件」
「先週、大学の知り合いに『面白いビジネスがある』って紹介されて、説明会に行ってきたんですよ」
「説明会」
「はい。会場に行ったら20人くらいいて、すごく雰囲気よくて。話を聞いたら、健康食品を紹介するだけで月10万〜30万稼げるって言うんです。しかも、自分も使えて健康になれるし、紹介した人が売れれば自分にも報酬が入るって……」
「紹介した人が売れれば報酬が入る」
「そうっす。それで今日、登録費3万円と最初の商品セットを買えば始められるって言われて——」
「待て」
俺は手を上げてケンタを止めた。
「まだ払ってないな?」
「……今日中に振り込めば特別価格になるって言われてて」
「払うな。座れ」
■ コーキの分析:マルチ商法が「うまい話」に見える理由
ケンタが引っかかりかけたのは、いわゆるマルチ商法——法律上は主に「連鎖販売取引」として扱われるビジネスモデルだ。
連鎖販売取引そのものがすべて違法というわけではない。ただし、勧誘方法や説明内容に問題があるケースも多く、実際には「簡単に稼げる」と思って始めた人が、商品購入や人間関係のトラブルで苦しむことも少なくない。
ケンタのケースは三拍子揃っていた。知り合いからの紹介、今日中という期限、そして「自分も使える」という言葉による正当化。
■ ケイイチロウの一言
所長室のドアが静かに開いた。ケイイチロウがいつものようにコーヒーカップを片手に出てきて、一言だけ言った。
🔍 ケイイチロウの一言
“誰でも稼げる”ビジネスが本当に存在するなら、なぜ見知らぬお前を儲けさせる必要がある

ケンタはしばらく黙って、その言葉を噛み締めていた。
「……言われてみれば、そうっすね」
■ 解決策:断る・逃げる・守る
マルチ商法への対処は3段階だ。
「ケンタ、今回は未然に防げた。だがこれからフリーランスで仕事をしていくと、怪しいビジネスや副業の勧誘はもっと増える。断る力は、稼ぐ力と同じくらい重要だ」
「……断る練習って、どうすればいいっすか」
「まず『うまい話は存在しない』を前提にすることだ。本当に稼げる仕事は、地道なスキルと実績の積み重ねから生まれる。近道はない」
遠回りに見えても、スキルを積み上げることが、結局いちばん確実だ。資格やビジネス知識を体系的に学びたいなら、スキマ時間でスマホから学べるオンライン講座という選択肢がある。
※広告ではありません
■ 勧誘を受けたときのチェックリスト
こんな言葉が出たら要注意のサインだ。
⚠️ 危険サイン
- 「絶対儲かる」「誰でも稼げる」「今日だけの特別価格」
- 「友人を紹介するだけ」「自分も使えて一石二鳥」
- 「考える時間を与えてもらえない」「その場で契約させようとする」
- 「借金してでも登録費・商品セットを買うよう勧められる」
■ ルリのまとめ
棚の上のルリが、今日もどっしりと座ってこちらを見下ろしていた。

🐱 今日のまとめ
「今日中に決めて」は判断力を奪う手口——その場では絶対に決めない
もし払ってしまっても、20日以内ならクーリングオフで契約解除できる可能性がある
迷ったら消費者ホットライン「188」に相談する(無料)
■ コーキの締め
「ケンタ、誘ってきた知り合いも、悪意があるとは限らない。自分が信じて、騙されていることに気づいていないケースも多い。怒るより、そっと距離を取る方が賢い」
「……誘ってきたやつのこと、どうしたらいいっすか」
「『親に反対された』で終わらせろ。それ以上の説明はいらない」
ケンタは少し肩の力が抜けた顔で、うなずいた。
「ありがとうっす。あやうく3万円、また飛ぶとこでした」
「今月だけで6万円分の危機を回避したな」
「笑えないっすよそれ……」
ケンタが帰った後、スマホにLINEが届いた。ミサキからだ。
『ねえコーキくん。今日ね、”副業説明会”に誘われたんだけど、行ってみたんだよね。なんか健康食品の話で、すっごく怪しかったけど、動画のネタになりそうだから潜入してきた! チャンネル登録よろしく✌️』
俺は画面を見て、深くため息をついた。
——ネタのために潜入するのはいいが、お前がハマる前に気づけよ。
既読だけつけて、スマホを机に伏せた。

次回:ケンタ、「奨学金って、返さなくていいんじゃないんすか」と言い出す。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・金融・投資助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新情報と異なる場合があります。困ったときは公的窓口(消費生活センター・法テラス・日本学生支援機構等)にご相談ください。

