【第3話】コーキ探偵、「マルチ商法の勧誘に引っかかりかけた問題」の相談を受ける

お金の罠

物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。


その日の午前中、俺は事務所で領収書の整理をしていた。

探偵業というのは、地味な作業の積み重ねだ。聞き込み、記録、書類仕事——派手な場面はほんの一瞬で、あとはひたすら地道な確認作業が続く。

コーキが領収書を整理するシーン

そこに聞き慣れた足音が近づいてきた。

「コーキさん! うまい話があるんすけど、聞いてもらえますか!」

ドアを開けた瞬間から、ケンタの目が輝いていた。

——まずい。この顔は、まずい。

ケンタが目を輝かせて登場するシーン

■ ケンタの「事件」

「先週、大学の知り合いに『面白いビジネスがある』って紹介されて、説明会に行ってきたんですよ」

「説明会」

「はい。会場に行ったら20人くらいいて、すごく雰囲気よくて。話を聞いたら、健康食品を紹介するだけで月10万〜30万稼げるって言うんです。しかも、自分も使えて健康になれるし、紹介した人が売れれば自分にも報酬が入るって……」

「紹介した人が売れれば報酬が入る」

「そうっす。それで今日、登録費3万円と最初の商品セットを買えば始められるって言われて——」

「待て」

俺は手を上げてケンタを止めた。

「まだ払ってないな?」

「……今日中に振り込めば特別価格になるって言われてて」

「払うな。座れ」


■ コーキの分析:マルチ商法が「うまい話」に見える理由

ケンタが引っかかりかけたのは、いわゆるマルチ商法——法律上は主に「連鎖販売取引」として扱われるビジネスモデルだ。

連鎖販売取引そのものがすべて違法というわけではない。ただし、勧誘方法や説明内容に問題があるケースも多く、実際には「簡単に稼げる」と思って始めた人が、商品購入や人間関係のトラブルで苦しむことも少なくない。

⚠️ 理由① 「紹介するだけ」という言葉のトリック
「商品を売る」ではなく「紹介するだけ」という表現が使われる。でも実態は、自分が商品を買い、さらに友人・知人に買わせることで収益が生まれる仕組みだ。「紹介」の先に必ず「購入」が必要になる。
⚠️ 理由② 「今日中」という締め切りの圧力
「今日振り込めば特別価格」「明日には枠が埋まる」——これは判断力を奪うための定番の手口だ。冷静に考える時間を与えないことで、勢いで決めさせようとしている。
⚠️ 理由③ 「知り合い」から誘われる安心感
見知らぬ人間から勧誘されれば警戒できる。しかし友人や知人、信頼している先輩から誘われると、詐欺だとは思いにくい。人間関係を通じて広がる仕組みだからこそ、断りにくさが生まれる。

ケンタのケースは三拍子揃っていた。知り合いからの紹介、今日中という期限、そして「自分も使える」という言葉による正当化。


■ ケイイチロウの一言

所長室のドアが静かに開いた。ケイイチロウがいつものようにコーヒーカップを片手に出てきて、一言だけ言った。

🔍 ケイイチロウの一言

“誰でも稼げる”ビジネスが本当に存在するなら、なぜ見知らぬお前を儲けさせる必要がある

ケイイチロウの一言シーン

ケンタはしばらく黙って、その言葉を噛み締めていた。

「……言われてみれば、そうっすね」


■ 解決策:断る・逃げる・守る

マルチ商法への対処は3段階だ。

✅ 対処① その場で断る——「持ち帰る」が正解
「今日中に決めないといけない」と言われたら、それ自体が怪しいサインだ。どんなビジネスでも、翌日まで待てない理由はない。「一度持ち帰って考えます」と伝えて、その場を離れることが最優先。断り文句に困ったら「家族や第三者に相談してから決めます」で十分だ。社会人なら「上司・知人に確認してから決めます」でも同様に使える。
✅ 対処② もし払ってしまったら——クーリングオフを使う
連鎖販売取引には、法律で20日間のクーリングオフが認められている。法律で定められた書面(または電磁的記録)を受け取った日から20日以内なら、理由なく契約を解除できる(商品の引渡しが書面より後の場合は引渡し日が起算点になることがある)。後で揉めないよう、内容証明郵便・送信済みメールの保存・専用フォームを使った場合はスクリーンショット保存など、証拠が残る形で通知しよう。
✅ 対処③ 一人で抱え込まない——消費者ホットラインに相談する
判断に迷ったら、消費者ホットライン「188」(いやや)に電話すれば、最寄りの消費生活センターなどにつないでもらえる。「払ってしまった」「勧誘をやめてもらいたい」どちらの相談でも対応している。

「ケンタ、今回は未然に防げた。だがこれからフリーランスで仕事をしていくと、怪しいビジネスや副業の勧誘はもっと増える。断る力は、稼ぐ力と同じくらい重要だ」

「……断る練習って、どうすればいいっすか」

「まず『うまい話は存在しない』を前提にすることだ。本当に稼げる仕事は、地道なスキルと実績の積み重ねから生まれる。近道はない」

遠回りに見えても、スキルを積み上げることが、結局いちばん確実だ。資格やビジネス知識を体系的に学びたいなら、スキマ時間でスマホから学べるオンライン講座という選択肢がある。



■ 勧誘を受けたときのチェックリスト

こんな言葉が出たら要注意のサインだ。

⚠️ 危険サイン

  • 絶対儲かる」「誰でも稼げる」「今日だけの特別価格」
  • 「友人を紹介するだけ」「自分も使えて一石二鳥」
  • 「考える時間を与えてもらえない」「その場で契約させようとする」
  • 借金してでも登録費・商品セットを買うよう勧められる」
📋 勧誘されたらすぐやること
  • 会社名・商品名・契約書面・説明資料・LINE履歴を保存・スクリーンショットする
  • その場では絶対に決めない——帰宅後に第三者に相談する
  • 借金して登録費や商品を買わない
  • 友人を巻き込むと、お金だけでなく人間関係の損失も生まれる
📋 払ってしまったら
事業者と直接揉め続ける前に、まず消費者ホットライン「188」(いやや)に相談する。専門の相談員が対応方法を案内してくれる。クーリングオフの手続き方法も教えてもらえる。

■ ルリのまとめ

棚の上のルリが、今日もどっしりと座ってこちらを見下ろしていた。

ルリのまとめシーン

🐱 今日のまとめ


「今日中に決めて」は判断力を奪う手口——その場では絶対に決めない

もし払ってしまっても、20日以内ならクーリングオフで契約解除できる可能性がある

迷ったら消費者ホットライン「188」に相談する(無料)

■ コーキの締め

「ケンタ、誘ってきた知り合いも、悪意があるとは限らない。自分が信じて、騙されていることに気づいていないケースも多い。怒るより、そっと距離を取る方が賢い」

「……誘ってきたやつのこと、どうしたらいいっすか」

「『親に反対された』で終わらせろ。それ以上の説明はいらない」

ケンタは少し肩の力が抜けた顔で、うなずいた。

「ありがとうっす。あやうく3万円、また飛ぶとこでした」

「今月だけで6万円分の危機を回避したな」

「笑えないっすよそれ……」

ケンタが帰った後、スマホにLINEが届いた。ミサキからだ。

『ねえコーキくん。今日ね、”副業説明会”に誘われたんだけど、行ってみたんだよね。なんか健康食品の話で、すっごく怪しかったけど、動画のネタになりそうだから潜入してきた! チャンネル登録よろしく✌️』

俺は画面を見て、深くため息をついた。

——ネタのために潜入するのはいいが、お前がハマる前に気づけよ。

既読だけつけて、スマホを机に伏せた。

ミサキのLINEを見てため息をつくコーキ

次回:ケンタ、「奨学金って、返さなくていいんじゃないんすか」と言い出す。


【ご注意】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・金融・投資助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新情報と異なる場合があります。困ったときは公的窓口(消費生活センター・法テラス・日本学生支援機構等)にご相談ください。