【第2話】コーキ探偵、「友人に3万円貸したら返ってこない問題」の相談を受ける

第2話アイキャッチ:友人への貸しお金問題 お金の罠

物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。


午後の日差しが斜めに差し込む頃、俺は古い事件ファイルを積み上げながら机の上を整理していた。

依頼人の話を整理したメモ。解決済みの案件。未解決のまま宙に浮いている件。

「……積み残しが多いな」

コーキが事件ファイルを整理するシーン

独り言を言いながらコーヒーを一口飲んだそのとき、ノックもなしにドアが開いた。

「コーキさん、ちょっといいっすか」

ケンタだ。今日は青ざめてはいない。どちらかといえば、バツが悪そうな顔をしている。

「また何かやらかしたか」

「……やらかした、というか。やらかされた、というか」


■ ケンタの「事件」

「同期に、3万円貸したんですよ」

ケンタが椅子に座りながら、ぼそっと言った。

「いつの話だ」

「……2ヶ月前です」

俺は手を止めた。

「返ってきてないのか」

「最初は『来月には返す』って言ってたんですよ。で、来月になったら『もうちょっと待って』って。それからLINEが……」

「既読スルー」

「…………はい」

ケンタが既読スルーのLINEを見せるシーン

3万円、2ヶ月、既読スルー。教科書通りの展開だ。

「その同期とはどういう関係だ」

「同じゼミのタクヤです。いいやつなんですよ、普段は。『バイト代入ったら絶対返す』って言ってたし……だから断れなくて」

「断れなかった、か」


■ コーキの分析:なぜ「貸し借り」はトラブルになるのか

正直に言おう。これはケンタが「お人好し」だったからじゃない。

友人へのお金の貸し借りがトラブルになりやすい理由は、構造的なものだ。

【理由①】 「催促すると関係が壊れる」という思い込み
貸した側は「早く返してほしい」と思いながらも、言い出せない。「お金のことでギスギスしたくない」「嫌われたくない」——この心理が催促を先延ばしにさせる。その間にも相手は「もう許してもらったかな」と都合よく解釈していく。
【理由②】 貸した側と借りた側で「重さ」が違う
貸した側にとって3万円は「大事なお金」。でも借りた側にとっては、他にも借りているものがあったり、生活費で頭がいっぱいだったりして、後回しになりやすい。同じ3万円でも、心の中の重さが全然違う。
【理由③】 口約束だけだと、条件と証拠が曖昧になる
友人同士の貸し借りには、返済期日や証拠を残すことがほぼない。口約束だけでは「いつまでに」「いくら」という合意が曖昧になり、後でお互いの記憶がズレやすい。法的には口約束でも契約になり得るが、証拠がなければ主張が難しくなる。

ケンタのケースも典型的だった。断れない関係性、口約束だけの約束、そして待ちすぎた2ヶ月。


■ ケイイチロウの一言

所長室からケイイチロウがゆっくりと出てきた。いつものように、静かに、的確に言った。

── ケイイチロウ

「金を貸す前に、すでに関係は試されている。返ってこないとき、その関係のお金への向き合い方が見える。」

ケイイチロウの一言シーン

ケンタは黙って俯いた。

「……タクヤのこと、嫌いになりたくないんですよね」

「だから余計に言えなかったんだろう」

俺がそう言うと、ケンタは小さく頷いた。


■ 解決策:「次からどうするか」を決める

今回の3万円はどうするか。残念だが、返ってくる保証はない。まずは「取り戻す」より「次からどうするか」を考える方が建設的だ。

【今回の対処】 LINEで記録を残す
もう一度だけ、文字で送ってみること。「タクヤ、前に貸した3万円なんだけど、いつ頃返せそう?」——感情的にならず、事実と質問だけ。これで相手が動かなければ、そこで判断材料が揃う。
【今回の対処②】 記録・証拠を今すぐ保存する
  • 貸した日時・金額・返済の約束をメモや記録として残す
  • 「返す」と言っているLINEや会話のスクリーンショットを保存する
  • 銀行振込・送金アプリの履歴は削除せず保管する
感情的な連投や脅し文句は送らない。記録が後で役立つ場合がある。
【それでも返らない場合】 法的な選択肢を知っておく
返済期限を具体的に確認し、それでも動かない場合は以下の選択肢がある。
  • 法テラス・自治体の無料法律相談:費用をかけずに専門家に相談できる
  • 簡易裁判所の少額訴訟:60万円以下の金銭請求が対象。相手の住所・証拠が必要で、手間・関係性・費用対効果を考えた上で検討する
ただし、手続きの手間・関係性の破綻・証拠の有無を総合的に判断することが必要だ。「必ず回収できる」とは言えないが、選択肢として知っておくだけで気持ちが楽になることもある。
【対策①】 「返ってこなくていい金額」だけ貸す
これが一番シンプルな原則だ。「失っても後悔しない金額」を自分の中で決めておく。それを超えるなら、最初から断る。「貸す」のではなく「あげる」つもりで渡せる金額に収める。
【対策②】 貸すときに「いつまでに」を確認する
「困ったときはお互い様」で終わらせず、「いつ頃返せそう?」と一言確認する。相手を責めるためじゃなく、返す意志があるかどうかを最初に確認するためだ。この一言があるだけで、後のトラブルがぐっと減る。
【対策③】 振り込みを提案する
「現金じゃなくて送金アプリや銀行振込でいいよ」と伝えると、相手も動きやすくなる。記録も残る。「取りに来て」だと相手のハードルが上がりやすいが、スマホ完結なら言い訳が効かない。

「フリーランスになったら、これが仕事のお金になる。クライアントからの未払いは、もっとシビアな問題になるぞ」

俺がそう言うと、ケンタは少し顔を上げた。

「……仕事でも同じことが起きるんすか」

「起きる。しかも相手が知り合いだと、なおさら言いにくくなる。今のうちに、お金のことをちゃんと話せる練習だと思えばいい」

お金の貸し借りトラブルを防ぐには、まず自分の家計を把握しておくことが大切だ。「余裕があるから貸せる」「今は厳しいから無理」という判断が、収支を見える化しておくことで迷わずできるようになる。


■ ルリのまとめ

棚の上のルリが、静かにこちらを見ていた。まるで「ようやく気づいたか」とでも言いたそうに。

ルリのまとめシーン

🐱 今日のまとめ

友人への貸し借りトラブルは「性格」じゃなく「構造」の問題
「返ってこなくていい金額」だけ貸すのが最大の防衛策
フリーランスを目指すなら、お金のことを話せる練習を今のうちに

■ コーキの締め

「ケンタ、タクヤが悪い人かどうかはわからない。でも、都合よく忘れていく人間は確かにいる。お前が優しすぎたわけじゃない——ただ、仕組みを知らなかっただけだ」

ケンタはしばらく考えてから、スマホを取り出してLINEを開いた。

「……送ってみます。記録、残しておきます」

「それでいい。結果がどうであれ、動いたことに意味がある」

ケンタが帰ってしばらくした頃、俺のスマホが鳴った。

画面に表示された名前を見て、俺は思わずため息をついた。

「……ミサキか」

電話に出ると、いつもの元気な声が飛び込んできた。

「コーキくん! ちょっと聞いていい? 取材で知り合った人に、機材費って言われて3万円立て替えたんだけど——連絡つかなくなったんだよね。これって取り戻せる?」

俺はしばらく無言で天井を見上げた。

「……お前、今日ケンタと同じ話をしに来た依頼人を送り出したとこだぞ」

「え、そうなの!? じゃあ答え知ってるじゃん、教えて教えて!」

「自分で調べろ」

「ひどい!」

電話を切って、俺はコーヒーを飲み直した。

ミサキからの電話シーン

お金の貸し借りに巻き込まれるのは、何も計画性のない人間だけじゃない。行動力があって、人を信じやすいタイプほど、引っかかりやすい。

——ミサキ、お前もそのクチだろ。

次回:ケンタ、「うまい話があるんすけど」と目を輝かせてやってくる。


【ご注意】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・金融・投資助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新情報と異なる場合があります。困ったときは公的窓口(消費生活センター・法テラス・日本学生支援機構等)にご相談ください。