物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。
午後の日差しが斜めに差し込む頃、俺は古い事件ファイルを積み上げながら机の上を整理していた。
依頼人の話を整理したメモ。解決済みの案件。未解決のまま宙に浮いている件。
「……積み残しが多いな」

独り言を言いながらコーヒーを一口飲んだそのとき、ノックもなしにドアが開いた。
「コーキさん、ちょっといいっすか」
ケンタだ。今日は青ざめてはいない。どちらかといえば、バツが悪そうな顔をしている。
「また何かやらかしたか」
「……やらかした、というか。やらかされた、というか」
■ ケンタの「事件」
「同期に、3万円貸したんですよ」
ケンタが椅子に座りながら、ぼそっと言った。
「いつの話だ」
「……2ヶ月前です」
俺は手を止めた。
「返ってきてないのか」
「最初は『来月には返す』って言ってたんですよ。で、来月になったら『もうちょっと待って』って。それからLINEが……」
「既読スルー」
「…………はい」

3万円、2ヶ月、既読スルー。教科書通りの展開だ。
「その同期とはどういう関係だ」
「同じゼミのタクヤです。いいやつなんですよ、普段は。『バイト代入ったら絶対返す』って言ってたし……だから断れなくて」
「断れなかった、か」
■ コーキの分析:なぜ「貸し借り」はトラブルになるのか
正直に言おう。これはケンタが「お人好し」だったからじゃない。
友人へのお金の貸し借りがトラブルになりやすい理由は、構造的なものだ。
ケンタのケースも典型的だった。断れない関係性、口約束だけの約束、そして待ちすぎた2ヶ月。
■ ケイイチロウの一言
所長室からケイイチロウがゆっくりと出てきた。いつものように、静かに、的確に言った。
── ケイイチロウ
「金を貸す前に、すでに関係は試されている。返ってこないとき、その関係のお金への向き合い方が見える。」

ケンタは黙って俯いた。
「……タクヤのこと、嫌いになりたくないんですよね」
「だから余計に言えなかったんだろう」
俺がそう言うと、ケンタは小さく頷いた。
■ 解決策:「次からどうするか」を決める
今回の3万円はどうするか。残念だが、返ってくる保証はない。まずは「取り戻す」より「次からどうするか」を考える方が建設的だ。
「フリーランスになったら、これが仕事のお金になる。クライアントからの未払いは、もっとシビアな問題になるぞ」
俺がそう言うと、ケンタは少し顔を上げた。
「……仕事でも同じことが起きるんすか」
「起きる。しかも相手が知り合いだと、なおさら言いにくくなる。今のうちに、お金のことをちゃんと話せる練習だと思えばいい」
お金の貸し借りトラブルを防ぐには、まず自分の家計を把握しておくことが大切だ。「余裕があるから貸せる」「今は厳しいから無理」という判断が、収支を見える化しておくことで迷わずできるようになる。
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■ ルリのまとめ
棚の上のルリが、静かにこちらを見ていた。まるで「ようやく気づいたか」とでも言いたそうに。

🐱 今日のまとめ
■ コーキの締め
「ケンタ、タクヤが悪い人かどうかはわからない。でも、都合よく忘れていく人間は確かにいる。お前が優しすぎたわけじゃない——ただ、仕組みを知らなかっただけだ」
ケンタはしばらく考えてから、スマホを取り出してLINEを開いた。
「……送ってみます。記録、残しておきます」
「それでいい。結果がどうであれ、動いたことに意味がある」
ケンタが帰ってしばらくした頃、俺のスマホが鳴った。
画面に表示された名前を見て、俺は思わずため息をついた。
「……ミサキか」
電話に出ると、いつもの元気な声が飛び込んできた。
「コーキくん! ちょっと聞いていい? 取材で知り合った人に、機材費って言われて3万円立て替えたんだけど——連絡つかなくなったんだよね。これって取り戻せる?」
俺はしばらく無言で天井を見上げた。
「……お前、今日ケンタと同じ話をしに来た依頼人を送り出したとこだぞ」
「え、そうなの!? じゃあ答え知ってるじゃん、教えて教えて!」
「自分で調べろ」
「ひどい!」
電話を切って、俺はコーヒーを飲み直した。

お金の貸し借りに巻き込まれるのは、何も計画性のない人間だけじゃない。行動力があって、人を信じやすいタイプほど、引っかかりやすい。
——ミサキ、お前もそのクチだろ。
次回:ケンタ、「うまい話があるんすけど」と目を輝かせてやってくる。
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