【第4話】コーキ探偵、「奨学金の怖さを誰も教えてくれなかった問題」の相談を受ける

お金の罠

物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。


その日の夕方、俺は所長のケイイチロウと二人で静かに仕事をしていた。

珍しく穏やかな時間だった。依頼もなく、電話もなく、事務所にはコーヒーの香りだけが漂っていた。

コーキとケイイチロウの静かな午後

その静寂を破ったのは、いつものドアの音だった。

「コーキさん! ちょっといいですか。奨学金のことで……」

ケンタだ。今日はどこか気まずそうな顔をしている。

「どうした」

「奨学金って……返さなくていいんじゃないんすか?」

俺はペンを置いた。


■ ケンタの「事件」

話を聞いてみると、ケンタは大学1年のときに奨学金を申請していた。毎月5万円、4年間で総額240万円。

「申請したとき、親が『もらえるお金だから大丈夫』って言ってて……俺もそのままにしてたんですよね」

「給付型か、貸与型か確認したか?」

「……え? 種類があるんすか」

俺は奨学金の書類を出してもらった。日本学生支援機構の第二種奨学金。利率は最大年3%。卒業後おおむね半年ほどで返還が始まる(在学猶予終了の翌月から7か月目が目安)。

「ケンタ、これは借金だ」

「……え」

「240万円を、利子をつけて返す必要がある」

ケンタの顔から、みるみる血の気が引いた。

奨学金の書類を見て青ざめるケンタ

■ コーキの分析:なぜ「奨学金=もらえるお金」と思われるのか

ケンタが知らなかったのは、珍しいことじゃない。奨学金の実態を正しく理解していない学生は、実は多い。なぜそうなるのか、理由が3つある。

⚠️ 理由① 「奨学金」という言葉のイメージ
「奨学」という言葉には「学びを奨励する」という意味がある。そのせいで「勉強を頑張る人へのご褒美」のような印象を持ちやすい。しかし日本の奨学金の大半は返済義務のある「貸与型」だ。給付型(返さなくていい)は採用枠が限られており、誰でも受け取れるわけではない。
⚠️ 理由② 申請時に「返す実感」が持てない
18歳で240万円を借りる実感は、ほとんどの人に持てない。毎月5万円が口座に振り込まれるだけで、「返済」という感覚が薄い。卒業後に初めて「返還通知」が届いて、初めて現実を知るケースが多い。
⚠️ 理由③ 親も正確に把握していないことがある
「もらえるお金」と思っていた親の言葉を信じたケンタに落ち度はない。しかし申請書類には利率や返還総額が記載されている。大事な書類を「親任せ」にすると、後から困るのは自分だ。

ケンタのケースは、誰にでも起きうる典型的な「知らなかった」事件だった。


■ ケイイチロウの一言

所長室からケイイチロウが出てきた。コーヒーカップを手に、静かに口を開いた。

🔍 ケイイチロウの一言

知らずに借りた金も、知って借りた金も、返す義務は同じだ。だが知っているかどうかで、対策が打てるかどうかが変わる

ケンタはうつむいたまま、小さく頷いた。

ケイイチロウの一言シーン

■ 解決策:返済と向き合う3つのステップ

奨学金の返済は、正しく知れば対策が打てる。パニックになる前に、順番に整理しよう。

✅ ステップ① まず「自分の返済総額」を把握する
スカラネット・パーソナル(日本学生支援機構の会員サイト)にログインすると、借入総額・利率・月々の返済額・返済期間がすべて確認できる。まず現実を数字で見ることが出発点だ。「知らないままにしておく」が一番危険な選択肢だ。
✅ ステップ② 返済が苦しいときは「猶予・減額制度」を使う
フリーランスや収入が不安定な時期には、返済を先延ばしできる「返還期限猶予制度」がある。最長10年まで猶予できる。また「所得連動返還型」は、対象になる制度や要件を満たす場合に、所得に応じた返還方式を選べることがある(貸与種別・申請要件によって異なる)。滞納する前に、必ず窓口に相談することが大事だ。
✅ ステップ③ 余裕が出てきたら「繰り上げ返済」を検討する
有利子の奨学金は、早めに返せば返すほど利子の総額が減る。まず生活費3〜6ヶ月分の「生活防衛費」を確保することを優先しよう。突然の収入減や急な出費に備えるための緊急資金だ。それができてから、余裕の範囲で繰り上げ返済を少しずつ検討するのがいい。投資はその先の話だ。

「フリーランスは収入が月によってバラつく。返済が苦しい月に滞納すると、信用情報に傷がつく。クレジットカードが作れなくなったり、将来ローンが組めなくなったりする可能性もある。滞納だけは絶対に避けろ」

「……滞納したらそんなことになるんすか」

「なる。だから猶予制度がある。使うことは恥じゃない。制度を知って使いこなすのが、賢い借り手だ」

ケンタは手元のスマホでスカラネット・パーソナルのページを開きながら、ゆっくりと現実の数字を見つめ始めた。返済に行き詰まりそうになったら、まず日本学生支援機構(JASSO)の窓口に相談してほしい。制度を知って使うことが、賢い借り手の第一歩だ。


■ 今すぐできる:自分の奨学金を確認する

📋 スカラネット・パーソナルで確認すること
  • 自分の制度名・貸与種別(第一種/第二種)
  • 利率・貸与総額・月々の返済予定額
  • 保証制度(人的保証か機関保証か)——人的保証は家族が連帯保証人になるため、滞納が家族への請求につながることがある
  • JASSOの返還シミュレーターで月額・総返済額を試算する
📋 「減額返還」と「返還期限猶予」は別制度
  • 返還期限猶予:返還そのものを一時的に先延ばし(最長通算10年)
  • 減額返還:月々の返還額を半額または3分の1に減らして返還を続ける
どちらも滞納前に申請することが重要。滞納後は本人・保証人への請求や信用情報への影響が生じる場合がある。

■ ルリのまとめ

棚の上のルリが、静かにこちらを見下ろしていた。今日はいつもより少し真剣な目をしている気がした。

ルリのまとめシーン

🐱 今日のまとめ

貸与型奨学金は返還義務のあるお金——給付型か貸与型か、利率は何%か、今すぐ確認する
返済が苦しいときは滞納より「猶予制度」——知って使うことは恥じゃない
まず生活防衛費(生活費3〜6ヶ月分)を確保してから、返済・資産形成を考える

■ コーキの締め

「ケンタ、知らなかったことを責めても仕方ない。大事なのは、今から知って動くことだ」

「……でも、240万って額がでかすぎて、なんか現実感ないっすよ」

「月に直せばわかる。月々いくら返すか、何年続くか。その数字を見てから、フリーランスとしての収入目標を考えろ。返済額を生活費や税金・国保・年金と一緒に織り込んだ収入目標を考えることが大事だ」

「……なんか急に、ちゃんとしなきゃって気になってきました」

「それでいい。その気持ちが出発点だ」

ケンタが帰り際、スマホを見ながら呟いた。

「……月々2万円くらいの返済か。フリーランスで月20万稼げれば、なんとかなりそうっすね」

「まず20万稼ぐ方法を考えろ。それが次の話だ」

ケンタが帰った後、スマホに通知が届いた。ミサキからのインスタのメンションだ。

投稿には「奨学金って給付型だと思ってた人〜🙋」というテキストと、ミサキ本人がカメラ目線で手を挙げている動画が添付されていた。コメント欄には「わかる」「私も知らなかった」という声が続々と並んでいる。

——お前のフォロワーも、みんな知らなかったのか。

俺はいいねだけ押して、スマホを閉じた。

ミサキのインスタ通知を見るコーキ

次回:ケンタ、「フリーランスになるには、何から始めればいいんすか」と聞いてくる。


【ご注意】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・金融・投資助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新情報と異なる場合があります。困ったときは公的窓口(消費生活センター・法テラス・日本学生支援機構等)にご相談ください。