Amazonのアソシエイトとして、コーキの社会人前夜相談室は適格販売により収入を得ています。
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※物語パートに登場する人物・団体・会社名は創作上のものです。実在の人物・団体とは関係ありません。
■ オープニング
七月に入り、事務所に差し込む陽光が強くなった。
ケイイチロウは夕方から外出中で、事務所にはコーキとルリだけだった。コーキがぬるくなったアイスコーヒーを飲みながら報告書を読んでいると、階段を上がる足音が聞こえた。
「……失礼します」
ドアを開けたのはヒロだった。黒縁メガネ、短い黒髪。いつものスーツ姿だが、襟が少しだけ崩れている。
「内定、もらいました」
開口一番、ヒロはそう言った。
「それは」とコーキは言いかけた。
「でも、なんか、おかしいんです」

■ 問題提示
ヒロはソファに腰を下ろすと、バッグから数枚の紙を出した。求人票のコピーだった。
「地方展開している小売会社の、営業職です。月給22万円で、求人サイトには『未経験歓迎・残業少なめ』って書いてあって」
「細かいところまで読んだか」
「一応調べたんですけど……月給22万円のうち、固定残業代45時間分が含まれるって書いてあって」
「つまり?」
「基本給は、計算すると……約15万円です。固定残業代が約7万円で合計22万、という構造で」
ヒロはメモを見ながら続けた。
「面接でも、残業時間を聞いたんですけど。そしたら『うちはやりがいを大事にしていますので』って言われて、数字を教えてもらえなくて」
「内定後は?」
「就業規則は入社してからお渡しします、と言われました。リスクがあるな……と思ったんですけど、他に内定がなくて。これしかないなら、行くしかないのかなって」
ヒロはメガネのフレームをそっと触った。
「……でも、なんとなく、嫌な感じがして」

■ コーキの分析:ブラック企業を見抜けなかった3つのポイント
「嫌な感じ、は正しい」
コーキは求人票を受け取り、テーブルに広げた。
⚠️ 理由① 給与の構造に注意材料がある
月給に固定残業代が含まれること自体は違法ではない。問題は「含まれている時間数」と「その後の扱い」だ。
固定残業代(いわゆる「みなし残業」)45時間という表記だけで、実際に毎月45時間残業すると断定はできない。ただし、月45時間は時間外労働の原則的上限と同じ水準であるため、実際の平均残業時間や超過分の支払い方法を確認すべき重要な注意材料になる。(※特別条項付き36協定など例外はあるが、月45時間は通常の上限を考えるうえで重要な目安だ)
それを差し引くと基本給は約15万円。固定残業代を除いた基本給を月の所定労働時間で割り、時間単価が勤務地の最低賃金を下回っていないかも確認しておきたい。さらに、固定残業時間を超えた分の割増賃金が別途支払われること、またその計算方法が明示されているかも確認する必要がある——その説明を書面で確認できないまま内定承諾を迫られている点も、注意材料になる。
⚠️ 理由② 面接での「はぐらかし」は慎重に見るべきサイン
「やりがいを大事にしています」という返答は、残業時間の質問をかわすときに使われやすい言葉だ。
残業時間などの質問に具体的な回答が得られない場合は、労働条件通知書や公表されている職場情報も確認し、慎重に判断した方がいい。
⚠️ 理由③ 入社前に労働条件が確認できないのは注意が必要
労働基準法第15条では、労働契約締結時に賃金・労働時間・休日などの主要な労働条件を書面等で明示することが義務付けられている。
「就業規則は入社後に渡す」という対応でも、少なくとも賃金・労働時間・休日・残業代などの主要条件は、入社前に書面等で確認しておくべきだ。条件を書面等で確認しないまま入社すると、後になって認識の違いが生じた際に、契約内容の確認が難しくなる。

■ ケイイチロウの一言
夕方になって戻ってきたケイイチロウが、コーヒーカップを持ちながら一言だけ言った。
「求人票の言葉がぼやけるとき、働き方の輪郭もぼやけている。」
ヒロはその言葉を、手帳に書き留めた。

■ 解決策:ブラック企業を見分ける3ステップ
ブラック企業に入らないために、内定の前後でできることがある。
✅ ステップ① 求人票の「数字」を分解する
月給に「固定残業代を含む」と書かれていたら、必ず計算する。
・固定残業代を除いた基本給はいくらか
・固定残業代(いわゆる「みなし残業」)は何時間分か(月45時間が通常上限の目安)
・固定残業時間を超えた分の割増賃金が別途支払われることが明示されているか
・固定残業代を除いた基本給を月の所定労働時間で割り、時間単価が勤務地の最低賃金を下回らないか
この4点を確認するだけで、給与の実態が大きく見えてくる。
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✅ ステップ② 面接で「3つの数字」を確認する
面接では、以下の3つを確認してみる。
・月の平均残業時間
・年間の有給取得率
・直近3事業年度の新卒採用者数と離職者数
「入社後のイメージをより具体的に持ちたいので教えてください」と伝えれば自然に聞ける。答えを濁す会社は、少なくとも慎重に見た方がいい。
✅ ステップ③ 内定後に「主要な労働条件」を書面で確認する
内定後、入社前に以下を書面等で確認することを会社に求めるのが望ましい。
【労働条件通知書で確認すべき主な項目】
・契約期間・勤務地・業務内容
・始業・終業時刻、休憩、休日
・残業の有無と固定残業代の内訳
・賃金の決定方法・支払日
・退職に関する事項
就業規則そのものが見られない場合でも、上記の主要条件を書面で明示してもらうことを求めることが大切だ。内定承諾の前に確認するのが理想的なタイミングになる。
【困ったときの相談先】
・厚生労働省 総合労働相談コーナー(都道府県労働局内・無料)
・労働基準監督署(賃金・労働時間の法的問題)
・確かめよう労働条件(厚生労働省)(若者向け・労働条件の基礎知識)

🐱 ルリのまとめ
- 「固定残業代45時間含む」は注意材料——実質的な基本給と最低賃金の時間単価を必ず確認する
- 面接で残業・有給・離職率の数字を答えにくそうにする会社は、慎重に見た方がいい
- 入社前に主要な労働条件を書面で確認する——困ったら総合労働相談コーナーに相談できる
■ コーキの締め
数日後、ヒロから短いメッセージが届いた。
『断りました。あの会社。』
続いて、もう一行。
『別の話があって。ソウタさんって大学の先輩が立ち上げたミカヅキゲームズっていう会社なんですけど。……少し考えてみます。』
コーキはそのメッセージを読んで、返信代わりに一言送った。
「動いたな」
既読がついた。
ヒロはまだ迷っている。でも今日、「断る」という選択をした。
(怖くても動ける人間は、いる。動けない人間にも、それぞれの話がある。)

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