Amazonのアソシエイトとして、コーキの社会人前夜相談室は適格販売により収入を得ています。
七月の半ば。
事務所はあいかわらず静かだった。コーキはいつものコーヒーを一口飲んで、窓の外の熱気をぼんやり眺めていた。
ドアがノックもなくいきなり開いた。
「コーキー、いるー?」
くたびれたTシャツにハーフパンツ姿のケンタだった。片手にコンビニの袋を提げている。どこからどう見ても、事件の依頼に来た人間の格好ではない。
「いるし」
「よかった。ちょっと聞いてほしいことあって」
ケンタはソファに座るより先にコンビニ袋を机に置き、アイスコーヒーのカップを取り出して一口飲んだ。
「部屋、引越そうと思って」
「今の部屋、どうした」
「いや、別に不満はないんだけど。3月4月って引越し繁忙期じゃん。業者費用も物件交渉も、あの時期は強気なんだよね。夏は需要が落ちるから、同じ部屋でも初期費用とか引越し料金が安く抑えやすくて」
「……調べたのか」
「フリーランスになってから、無駄な出費がちょっと気になるようになって」
大学時代から一人暮らしを続けてきたケンタが、繁忙期を外したタイミングで部屋を探しているらしい。それ自体は悪くない判断だ。
「で、気になる物件が見つかって、見積もり出してもらったんだけど……」
ケンタは少し顔をしかめた。
「なんか、変な感じがして」

■ ケンタの「事件」
「物件自体はよかったんだよ。駅から徒歩12分、6万5千円、1Kで日当たり良好。写真も良かったし、内見も悪くなかった。だけど、見積もり出してもらったら……」
ケンタはスマホを取り出して、画面をコーキに向けた。
「これ、なに?」
画面には初期費用の内訳が並んでいた。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 敷金(2ヶ月分) | 130,000円 |
| 礼金(2ヶ月分) | 130,000円 |
| 仲介手数料(1ヶ月分) | 65,000円 |
| 前家賃(1ヶ月分) | 65,000円 |
| 火災保険料 | 20,000円 |
| 鍵交換費用 | 20,000円 |
| 24時間サポート料(初年度) | 18,000円 |
| 消臭・抗菌施工 | 30,000円 |
| 害虫駆除 | 15,000円 |
| 合計 | 493,000円 |
コーキは画面を一通り眺めた。
「何がおかしいと思った?」
「消臭・抗菌施工と害虫駆除。内見したとき、臭いも虫も気になってなかったのに、なんで4万5千円も払うの? って思って」
「正しい違和感だ」
「え、やっぱり変?」
「変な項目が複数ある。説明する」

■ コーキの分析:引越しで「お金を抜かれる」3つの罠
引越しの初期費用は、知らないと言いなりになってしまう。費用の仕組みを知っておくだけで、数万円〜十数万円の差が出ることもある。
「ケンタの見積もりで変なのは複数ある。消臭・抗菌施工・害虫駆除・24時間サポートの3点は任意オプションの可能性が高い。それと——仲介手数料が1ヶ月分になってる」
「それって普通じゃないの?」
「借主から受け取れる仲介手数料は原則0.5ヶ月分+消費税までだ。媒介を依頼するときに借主が承諾している場合は、1ヶ月分+消費税までになることがある。契約前なら、負担額を確認して相談できる余地がある」
「……知らなかった」
「知らなければ払う。仕組みを知っていれば、交渉できる」
「……全部合わせると、いくらになる?」
「オプション3点が6万3千円、仲介手数料の差額が3万2千円。うまくいけば10万近く変わる」
ケンタはしばらく画面を見つめていた。
「なんで最初から言ってくれないんだろ」
「言われないと払ってくれるから」
「……なるほど」

■ ケイイチロウの一言
所長室のドアが静かに開いた。
🔍 ケイイチロウの一言
部屋を借りるのは、契約だ。感情で決めず、数字と書面で判断しろ
ドアが閉まった。
ケンタは少し口をつぐんで、スマホの画面をもう一度見た。

■ 解決策:引越しの罠を避ける3つのステップ
引越しは金額が大きいだけに、少しの知識で数万円〜十数万円変わる。焦らず、順番に確認するだけでいい。
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「写真、撮ってなかった」
「今からでも間に合う。契約前に撮れ」
「……わかった。ありがとう」
ケンタはスマホをしまいながら、少し表情が和らいだ。
■ ルリのまとめ
棚の上のルリが、今日は珍しく目を細めてケンタを眺めていた。

📋 ルリのまとめ
- ✅ 借主負担の仲介手数料は原則0.5ヶ月分+消費税まで——承諾の有無と契約条件を確認する
- ✅ 退去時の原状回復費用は全額借主負担ではない——国土交通省のガイドラインを確認する
- ✅ オプションは任意か契約条件かを確認する——必須と言われたら書面で根拠を求める
■ コーキの締め
ケンタがコンビニ袋を持って立ち上がりながら言った。
「サクラとヒロ、来てたんだって? 俺が紹介したから」
「来た」
「どんな感じだった?」
「二人とも、まじめに悩んでた」
「……そう」
ケンタは少し間を置いた。
「なんか、うれしいような。恥ずかしいような」
「何が?」
「俺が紹介して、ここで役に立ったんだなって」
コーキは少し間を置いた。
「ケンタも役立った」
「え」
「紹介したじゃないか」
ケンタは数秒固まってから、少しだけ笑った。
「……まあいっか、そういうことで」
ドアが閉まった。
コーキはコーヒーの最後の一口を飲み干した。
(まあいっかで動ける人間も、ちゃんといる場所がある)
窓の外、夏の日差しが真上から降り注いでいた。
次回:ヒロ、ブラック企業の内定に揺れる。

※物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・金融・投資助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新情報と異なる場合があります。困ったときは、消費生活センター、自治体の住宅相談窓口、宅地建物取引業の担当部署などの公的・専門窓口にご相談ください。
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