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※物語パートに登場する人物・団体・会社名は創作上のものです。実在の人物・団体とは関係ありません。
■ オープニング
八月の初め。事務所に風が通り抜けるようになった頃、またサクラがやってきた。
今日は少しだけ元気がある。前回よりも肩の力が抜けていた——が、バッグから取り出したのは、封筒だった。
「これ、見てもらえますか」
封筒には「保険証券」と書いてあった。三枚。
「全部、私が入っている保険です」

■ 問題提示
「入社してすぐ、職場の先輩に言われたんです。『社会人になったら保険は必要だよ』って」
サクラはテーブルに証券を並べながら続けた。
「その先輩が紹介してくれた保険の方が来て……断れなくて。結局3本入りました。医療保険と、死亡保険と、がん保険です」
「月いくらになる」
「合計で、2万4千円くらいです」
コーキはそれを聞いて、少し間を置いた。
「給料は手取りでいくらだ」
「だいたい19万円くらいです。社会保険料とか引かれて」
「つまり給料の8分の1が保険代に消えている」
「……そう言われると」
サクラは証券を見つめた。
「でも、社会人なら保険って必要ですよね? もし病気になったら怖いし。でも先月、食費を削っていて」
「先輩に断れなかったのか」
「……はい」

■ コーキの分析:保険を「入らされる」3つの理由
「まず確認しておく。保険が悪いわけじゃない。問題は、必要かどうかを確認する前に入ったことだ」
コーキはメモ帳を開いた。
⚠️ 理由① 「社会人=保険」という思い込みが判断を曇らせる
「社会人になったら保険に入るもの」という言葉は、正確ではない。
正確には「社会人になったら社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する」だ。会社員の多くは、勤務先を通じて健康保険や厚生年金などの公的保険に加入しており、すでに相当の保障を受けている。
民間の生命保険・医療保険は、公的保険では足りない部分を補うために「検討する」ものだ。入社直後は特に不安を感じやすく、不安が強い時期には、必要性を十分に確認しないまま契約してしまうこともある。
また、扶養している家族がいない場合、大きな死亡保障が今すぐ必要かどうかは、一度立ち止まって確認したい。
⚠️ 理由② 公的保険が何をカバーするか知らないまま入る
会社員が加入している健康保険には、多くの人が知らない保障が含まれている。
・高額療養費制度:医療費が一定額を超えた分は、申請すると払い戻される(月の自己負担に上限がある)
・傷病手当金:病気・ケガで仕事を休んだとき、支給開始前12か月間の標準報酬月額を平均した額などを基に、1日あたりおおむね3分の2相当が、支給開始日から通算1年6か月まで支給される(待期期間などの条件がある)
・ほかにも、出産・育児に関する公的給付がある
公的保険でカバーされる部分を知らないまま、必要以上に手厚い保障を買ってしまうことがある。
⚠️ 理由③ 「先輩の紹介」は断りにくい構造になっている
職場の先輩や知人からの紹介で保険に入るケースは多い。断ると人間関係に影響が出るように感じやすいためだ。
しかしこれは、保険の内容と人間関係を混同している状態だ。「先輩が紹介してくれた」ことへの感謝と「その保険が今の自分に必要かどうか」は、まったく別の話だ。

■ ケイイチロウの一言
ケイイチロウが書類から目を上げて、一言だけ言った。
「保険は、不安に備える商品だ。だからこそ、何を不安に思っているかを先に知れ。」
サクラはその言葉を、手帳に書き留めた。

■ 解決策:保険を見直す3ステップ
保険は入ったあとでも見直しができる。ただし順番がある。
✅ ステップ① 今入っている保険を棚卸しして、生活防衛資金も確認する
まず、今入っている保険を全部並べて把握する。
確認すべき項目:
・保険の種類(医療・死亡・がん・学資など)
・月々の保険料と年間の合計額
・どんなときにいくら給付されるか
・保険期間(いつまでの契約か)
同時に確認したいのが生活の余力だ。食費を削ってまで保険料を払っているなら、保険より先に生活費と貯金(生活防衛資金)の余力を確保することを優先したい。
✅ ステップ② 公的保険で何がカバーされるか確認する
民間保険の必要性を判断する前に、公的保険の内容を把握する。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 高額療養費制度 | 月の医療費の自己負担に上限がある(年収に応じて変動)。ただし差額ベッド代・入院時の食事代・先進医療費など保険診療外の費用は対象にならない |
| 傷病手当金 | 病気・ケガで休業中、標準報酬月額を基におおむね3分の2相当を通算1年6か月まで支給(待期期間などの条件あり) |
| 労災保険 | 仕事中・通勤中のケガや病気は、労災保険の対象になる場合がある |
これらを知ったうえで「それでも足りない部分」が、本当に必要な民間保険の出番だ。
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✅ ステップ③ 解約・クーリングオフ・見直しの選択肢を確認する
保険は入ったあとでも見直せる。主な選択肢は以下の3つだ。
・クーリングオフ:一般的には、申込日またはクーリングオフに関する書面を受け取った日のいずれか遅い日から、その日を含めて8日以内に手続きできる。商品や契約方法によって条件が異なるため、必ず保険会社の書類を確認すること。
・解約:クーリングオフ期間を過ぎていても解約は可能。解約返戻金が戻ってくる場合がある。
・保障内容の変更・減額:解約せずに保険金額を下げることで保険料を抑えられる場合がある。
解約する前に、保障がなくなる範囲・再加入時の健康状態の告知・解約返戻金の有無・元本割れの可能性を確認することが大切だ。迷う場合は、保険会社や中立的な相談窓口に相談してから判断するのがよい。
困ったときの相談先:
・生命保険文化センター(保険の仕組みや公的保障を調べるための情報サイト)
・金融庁 金融サービス利用者相談室(金融・保険全般の相談窓口。ただし、あっせん・仲介・調停は行っていない)
・生命保険協会 生命保険相談所(契約内容の疑問や、保険会社との間のトラブル・苦情の相談に対応)

🐱 ルリのまとめ
「公的保険が何をしてくれるか知ってから入れ。それが順番だ」
- 会社員は勤務先を通じて公的医療保険などに加入し、高額療養費制度や傷病手当金を利用できる場合がある——民間保険はその「足りない部分」を補うもの
- 今の自分に本当に必要かを確認する前に入った保険は、クーリングオフ・解約・減額で見直せる——まず保険会社に選択肢を確認する
- 「先輩の紹介」と「保険の必要性」は別の話——断ることと、感謝することは同時にできる
■ コーキの締め
証券を封筒に戻しながら、サクラが少し顔を上げた。
「解約って、してもいいんですね」
「必要なものだけ残せばいい」
「でも先輩に紹介してもらったのに……」
「感謝の気持ちと、契約の判断は別だ」
サクラはしばらく考えてから、小さく頷いた。
「……そっか。そうですよね」
今日はいつもより少し、自分の言葉で考えている顔だった。
(「断る」ことを覚えたサクラが、今度は「見直す」ことを覚え始めた)

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