【第44話】ケンタに、また誰かが現れた話

第44話アイキャッチ:ケンタにまた誰かが現れた ストーリー

※物語パートに登場する人物・団体・会社名は創作上のものです。実在の人物・団体とは関係ありません。

■ 継続案件

夏の終わり、ケンタが妙に機嫌よく事務所に現れた。

「聞いてくれる?最近、月イチで入ってる継続案件があってさ。地元の店の紹介動画を作る仕事」

「珍しいな、お前が単発じゃなく続けてるのは」

「それがさ、写真の人と組んでるんだけど、その人の写真がめちゃくちゃいいんだよ。俺が動画にまとめて、店に納品する流れ」

ケンタは自分のノートパソコンを開き、完成した動画をいくつか見せた。確かに、以前より落ち着いた仕事ぶりだった。

「その写真家、名前は?」

「リオさん。……あ、いや、リオ。歳、俺と近いから」

一瞬の言い直しに、何かが滲んでいた。

上機嫌で継続案件の動画を見せるケンタ

■ よく喋るようになった男

その日以来、ケンタが事務所に来るたびに、話の端々に「リオが」という名前が出てくるようになった。

「リオ、現場に着くの早くて。俺が寝坊しかけたら、ちゃんと連絡くれるんだよ」

「リオの写真、構図が独特でさ。俺の編集のリズムと相性いいんだよな」

ルリが、ケンタの膝の上で目を細めた。

「その人の話、今日でもう5回目だよ」

「え、数えてたのか」

「数えるまでもないくらい多いの」

ケンタは慌てて咳払いをした。

「べ、別に、そういうんじゃないから。仕事のパートナーとして、信頼できるってだけで」

「信頼できるパートナーの話を、5回も自分からしないだろう」

コーキが言うと、ケンタは黙り込んだ。図星らしかった。

リオの話をするケンタとそれを見つめるルリ

■ 三年前とは違うやり方

「正直に言うとさ」

しばらくして、ケンタがぽつりと言った。

「前の俺だったら、言えないまま『あとでいいか』で先延ばしにするか、焦って距離を詰めて空回りしてたと思う」

「今は違うのか」

「違う。今は、ちゃんと自分の予定も、財布の中身も、相手に隠さず話せてる。リオにも、フリーランスの収入は波があるって最初に伝えたし、撮影の合間に昼を食べたときも、割り勘でいいかって聞いたら、『もちろん』って笑われた」

その言葉には、以前のケンタにはなかった落ち着きがあった。

「断る基準を持てるようになったのと、同じ話だな」

「うん。多分、それが効いてる」

三年前とは違う落ち着きを見せるケンタ

ケイイチロウが、通りすがりにその会話を耳にして、足を止めた。

「対等でいられる相手というのは、貴重だ。金でも、勢いでもなく、その関係を選べ。」

ケンタは、珍しく神妙な顔でうなずいた。

ケイイチロウが対等な関係について語るシーン

■ 名刺代わりの一本

数週間後、ケンタは少し興奮した様子で報告に来た。

「リオと、クライアント案件じゃなくて、二人だけの企画を撮ることになったんだ。『名刺代わりの一本』作ろうって、リオが言い出して」

「仕事を超えた話になってきたな」

「そうなんだよ。……それで、撮影の帰りに、思い切って誘ってみた。『今度、仕事じゃなくてご飯行きませんか』って」

「返事は」

ケンタは、照れくさそうに笑った。

「『待ってました』だってさ」

リオを食事に誘うケンタ

■ エピローグ:新しい景色

事務所を出る前、ケンタが振り返って言った。

「なんか、前とは違う始まり方だなって、自分でも思う。焦って何かを埋めようとしてたんじゃなくて、ちゃんと一緒にいて心地いいから、って思えてる」

「それが、お前が3年かけて手に入れたものだ」

「かっこいいこと言うじゃん」

「たまにはな」

ケンタは笑いながら、事務所を出ていった。夏の終わりの風が、少しだけ涼しくなり始めていた。

(先延ばし癖の塊だった男が、今度は自分のペースで、誰かとの距離を選んでいる。……この仕事、たまにこういう報酬がある)

夏の終わりの事務所を出ていくケンタ

この話は、実用解説よりもシリーズ本編のストーリーを中心にした回です。ケンタの3年間の成長と、新しい出会いへの橋渡しになっています。

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