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※物語パートに登場する人物・団体・会社名は創作上のものです。実在の人物・団体とは関係ありません。
※相続・遺言に関する制度は法改正や個人の状況により異なります。具体的な判断は弁護士・司法書士・税理士等の専門家にご確認ください。
相続トラブルは資産家だけの話ではありません。遺言書がなく、分けにくい財産がある場合には、遺産分割の話し合いが難航することがあります。
📝 この記事でわかること
- 相続でつまずきやすい典型的な理由
- 「自分には関係ない」と思う人ほど危ない事情
- 早いうちに確認しておきたいこと
■ オープニング
九月の半ば、サクラは喪服のまま事務所に寄った。
「すみません、こんな格好で。母方の祖母が、先週亡くなって」
「大変だったな」
「お葬式自体は、ちゃんとお別れができて、良かったんです。でも……その後が」
サクラは、疲れた表情でソファに沈み込んだ。
「遺産の話になったら、普段仲の良かった伯母たちが、急に言い合いを始めて。私、あんな空気、初めて見ました」

■ 問題提示
「祖母、遺言書を残していなかったんです。それで、家をどう分けるかとか、預金をどうするかとか、話し合いで決めなきゃいけなくて」
「揉めたのか」
「揉めました……。『同居して介護してた私の方が多くもらって当然』『いや法律上は平等でしょ』って。普段は仲がいいのに、お金の話になった途端、全然違う顔になって」
サクラは膝の上で手を握った。
「私、相続なんて、お金持ちの家だけの話だと思ってたんです。うちは普通の家だし。でも、全然そんなことなくて」
「その勘違いは、多い」
「うちの両親のことも、いつかは同じことになるのかなって思ったら、急に怖くなって。……何も知らないんです、私」

■ コーキの分析:「相続」でつまずく3つの理由
コーキはノートを開いた。
「今回のことは、他人事じゃない。理由は3つある」
⚠️ 理由① 「相続は資産家の話」という思い込み
相続トラブルというと、大きな財産を持つ家庭の話だと思われがちだ。だが、家庭裁判所の遺産分割事件のうち調停成立などで終わった事件では、遺産額5,000万円以下の事案が約8割を占める(令和7年は8,321件中6,457件。最高裁判所「司法統計年報(家事編)」より)。不動産のように分けにくい財産があると、金額が大きくなくても対立が起きることがある。
現金と違って、家は「半分に割る」ことができない。誰か一人が住み続けるのか、売って分けるのか——そこで意見が割れる。「うちは普通の家だから大丈夫」という前提こそが、危うい。
⚠️ 理由② 遺言書がないと、「話し合い」で決めることになる
遺言書がある場合、故人の意思が明確なので、相続人はそれに従うのが基本になる。だが遺言書がなければ、相続人全員での「遺産分割協議」で、一つひとつ決めていく必要がある。
法定相続分は、相続人の間で合意できない場合などに基準となる割合だ。ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる分け方もできる。「介護を頑張った」「昔お金を借りていた」といった感情や過去の記憶が、話し合いに入り込みやすい。
⚠️ 理由③ 「まだ先の話」と、元気なうちに何も話し合っていない
相続の話は、故人が亡くなってから急に始まることが多い。だが、本人が元気なうちに希望を聞いておけば、防げた対立も少なくない。
「縁起でもない」「まだ早い」という空気が、話し合う機会そのものを遠ざけてしまう。結果として、一番大変な時期に、一番難しい話し合いをすることになる。

■ ケイイチロウの一言
サクラの話を聞いていたケイイチロウが、静かに言った。
「相続の場で見えるのは、財産の分け方じゃない。その家族が、普段どれだけ話し合ってきたかの結果だ。」

■ 解決策:「知らなかった」を防ぐ3ステップ
「じゃあ、私たちは、これから何をすればいいんでしょうか」
「3つだ。基礎知識、親世代との対話、自分たちの備え。この順で考えろ」
✅ ステップ① 相続の基本だけでも知っておく
・誰が相続人になるか(法定相続人)、どういう割合が基準になるか(法定相続分)といった基礎を、一度調べておく
・遺言書があるとどう変わるか、遺留分(最低限保障される取り分)とは何か、といった基本用語を押さえておく
・知識がゼロの状態で当事者になるのと、基礎だけでも知っているのとでは、いざというときの対応がまったく違う
📋 最低限おさえておきたい相続の基本
| 相続人になる人 | 配偶者は常に相続人。ほかは、第1順位:子(先に亡くなっていれば孫など)→ 第2順位:父母・祖父母など → 第3順位:兄弟姉妹(先に亡くなっていればその子)。先の順位の人がいれば、後の順位の人は相続人にならない |
|---|---|
| 引き継ぐもの | 預金や不動産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象になる。引き継がない場合は、3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申述をする |
| 相続税の基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数(法定相続人に含められる養子は、実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人まで)。遺産の合計がこの範囲内なら、相続税の申告は不要 |
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✅ ステップ② 親世代とは、元気なうちに軽いきっかけで話しておく
・いきなり「遺産どうする?」と切り出すのではなく、エンディングノートや持ち物の整理といった軽い話題から入る
・希望は家族に共有し、必要に応じて書面にも残しておいてもらう。ただし、法的な効力を持つ遺言書にするには、民法で定められた方式を守る必要がある
・「縁起でもない」を理由に先送りするほど、実際にそのときが来たときの負担が大きくなる
✅ ステップ③ 自分たちの世代の「もしも」にも、少しずつ備え始める
・結婚を控えている今だからこそ、お互いの資産(NISA口座、保険、加入しているサービス)を大まかに共有しておく
・SNSアカウント、サブスク、ネット銀行など、「デジタル資産」も、もしものときに家族が困りやすいポイントになっている
・今すぐ遺言書を書く必要はないが、「何がどこにあるか」を家族やパートナーが把握できる状態にしておくだけでも、大きな備えになる

🐱 ルリのまとめ
「相続で本当に試されるのは、お金の分け方より、家族が普段どれだけ話せてたかなんだよね」
- 相続は資産家だけの話ではない——分けにくい財産があると、金額が大きくなくても揉めることがある
- 遺言書がないと話し合いで決めることになる——感情が入り込みやすい
- 元気なうちに話しておく——先送りするほど、後の負担が大きくなる
■ よくある質問
Q. 相続は財産が少なくても揉めますか
揉めることがあります。家庭裁判所で調停成立などにより終わった遺産分割事件では、遺産額5,000万円以下の事案が約8割を占めます(令和7年司法統計年報)。分けにくい財産(不動産など)が中心の場合や、生前の関わり方に差があった場合は、金額の大小にかかわらず対立が起きることがあります。
Q. 相続の手続きには期限がありますか
あります。相続放棄は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申述します。相続税の申告は、申告が必要な場合(遺産の合計が基礎控除を超える場合など)、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。不動産の相続登記は2024年4月から義務になり、取得を知った日から原則3年以内に申請します。遺産分割が成立した場合は、成立した日から3年以内にその内容を反映した登記も必要です。
Q. 今のうちにできることはありますか
どこにどんな財産があるかを家族が把握できる状態にしておくこと、遺言の有無を確認しておくことが挙げられます。話し合いの機会を持つこと自体が予防になります。
Q. 相続について誰に相談すればいいですか
相続税の申告など税金は税理士、不動産の相続登記は司法書士、相続人同士の争いや交渉は弁護士が窓口になります。まずは法テラスや自治体の無料相談を利用する方法もあります。
📎 一次情報(公的機関)
■ コーキの締め
「今日、両親に電話してみます。重い話にならないように、それとなく」
「良い判断だ」
「あと……ヒロとも、お互いの持ち物とか口座とか、ちゃんと共有しておこうと思います。縁起悪いとか言ってる場合じゃないですよね」
「早いに越したことはない」
サクラは少しだけ表情を和らげて、頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました。……祖母がくれた、最後の宿題みたいな気がします」
俺は小さくうなずいた。
「その宿題、ちゃんと持って帰ったな」
(喪服のまま事務所に来た依頼人が、悲しみだけでなく、次の世代への備えを持ち帰っていく。……この仕事、たまにこういう報酬がある)

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