ストーリー回:ミサキが消える【第48話】

第48話アイキャッチ:ミサキが消える ストーリー

※この話はシリーズ本編のストーリーを中心に構成しています。登場する人物・団体・会社名・学校名・地名等はすべて創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。

■ 帰ってこない依頼

十月も半ばを過ぎた夜、ミサキが事務所に来た。

自撮り棒もカメラもない。それだけで、今日が「依頼」ではなく別の何かだと分かった。

「コーキくん、ちょっと時間ある?」

いつもの明るい声のトーンだったが、目の奥だけが違った。ずっと前、この事務所で初めて涙を見せたあの日と、同じ目だった。

「コーキくんに、報告があって」

「依頼の件か」

正式に引き受けてから、ずっと動いていた案件だった。サトルの足取りは、簡単には尻尾を出さなかったが、俺にも俺なりの進め方があった。

夜、依頼ではない様子で事務所に来たミサキ

■ 見つけたもの

「まず、こっちの話を聞いてくれ」

コーキは、机の引き出しから調査ノートを取り出した。ゆらぎ町の不動産登記、サトルが記者時代に使っていた出張精算の控え、そして——サトルの資料箱に残っていた、海外送金依頼書の控え。失踪直前に組まれた、小さな送金だった。

「額は大したことない。受取人の欄は、かすれて読めなかった。だが、宛先の銀行コードは残っていた。そこから、送金先の国まではたどれた。金は確かに、国外へ流れていた」

ミサキが、息を呑んだ。

「私の方も、進展があって」

彼女はバッグから、古い紙片のコピーを取り出した。

「サトルさんの箱、まだ読み切れてないページがあったの。地図の裏、ノートの綴じ目の奥。何度も見返してたら、先週やっと気づいて。父の、昔の記者仲間の連絡先リストの隅に、書き込みがあった。国名も、場所も書いてない。でも、連絡先リストの電話番号の国番号が、コーキくんの言った国と同じだったの。それと——父の字で、こう」

紙には、短く一行だけ。

《六月、向こうで会えた。元気だ。心配するな》

日付は、サトルが失踪する直前だった。コーキが辿った送金記録の時期と、ほぼ重なっていた。

「これ、誰かに宛てて書きかけて、出さなかった手紙みたい。……たぶん、私に」

「『会えた』相手が誰なのかは、書いてないな」

「うん。でも、父が自分で選んで向こうへ行ったことだけは分かる」

「俺が追ってた金の流れと、お前が見つけた書き置き。時期が、合ってる」

二つの糸が、ようやく一本に繋がった瞬間だった。

「行くのか」

「行く」

迷いのない声だった。

コーキとミサキ、それぞれの手がかりが繋がる瞬間

■ 一人で行くと言う女

「危険だとわかってるのか」

「わかってる。でも、待ってるだけじゃ何も変わらない。父は自分の意思で向こうへ行った。だから、きっと今も向こうにいる。それだけで、もう十分な理由になる」

「一人でか」

「一人で。……コーキくんやレイジくんを巻き込みたくない。これは、私の家族の話だから」

コーキは反論しようとして、やめた。ミサキの目に、止められる隙間はなかった。

「ハルカにも、まだ言ってない。アキラさんのことも、もしかしたら、繋がってるかもしれないから」

「戻ってきたら、全部話せ」

「うん。約束する」

一人で行くと決意するミサキ

■ ケイイチロウの沈黙

奥からケイイチロウが出てきて、ミサキの手にある紙片に目をやった。

何も言わなかった。

だが、その沈黙は、いつもの「多くを語らない」とは、明らかに質が違っていた。長い時間、何かを飲み込んでいるような沈黙だった。

「所長?」

「……いや」

ケイイチロウは一度だけ目を伏せ、それから静かに言った。

「無事に、戻ってこい。それだけだ。」

短い言葉の中に、コーキがまだ知らない何かが揺れているのを、感じた。

紙片を見て沈黙するケイイチロウ

■ 見送り

数日後、ミサキは小さなキャリーケース一つで空港に向かった。見送りは、コーキだけだった。

「YouTubeは?」

「しばらく休む。理由は、『ちょっと家族のことで』とだけ言っておく」

「戻ってきたら、また『ちゃんとした依頼』を持ってくるのか」

ミサキは、少しだけいつもの調子で笑った。

「うん。今度こそ、ちゃんとした依頼。……コーキくん、ありがとうね。同じ高校だったって分かったときから、ずっと」

「何のことだ」

「知らなくていい。今は」

その一言に、コーキ本人には気づかせないまま、何かが静かに閉じた。

ミサキは背を向け、搭乗口の向こうへ歩いていった。振り返らなかった。

空港でコーキに見送られるミサキ

■ エピローグ:それから

事務所に戻ると、ルリがいつもの窓辺で丸くなっていた。ミサキの椅子だけが、やけに空席に見えた。

(父を待つ側だった人間が、自ら探す側に回った。答えの出ない問いを抱えながら、それでも俺たちの日常は続いていく)

ケイイチロウは、あの夜以来、何も語っていない。だが時折、遠い目で窓の外を見ていることがある。

俺たちにできることは、変わらない。今日も、誰かが事務所のドアを叩く。悩みを抱えた誰かが、答えを探しにやってくる。

ミサキの分の答えは、彼女自身が見つけて帰ってくるまで、ここで待つしかない。

ミサキのいない事務所で丸くなるルリ

この話は、実用解説よりもシリーズ本編のストーリーを中心にした区切り回です。ミサキと父・サトルをめぐるバロール編は、ここでひとつの節目を迎えます。

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