【第15話】コーキ探偵、「引越しで騙されかけた話」の相談を受ける

第15話アイキャッチ:引越し見積もりを確認するケンタ 住まい・生活

Amazonのアソシエイトとして、コーキの社会人前夜相談室は適格販売により収入を得ています。


七月の半ば。

事務所はあいかわらず静かだった。コーキはいつものコーヒーを一口飲んで、窓の外の熱気をぼんやり眺めていた。

ドアがノックもなくいきなり開いた。

「コーキー、いるー?」

くたびれたTシャツにハーフパンツ姿のケンタだった。片手にコンビニの袋を提げている。どこからどう見ても、事件の依頼に来た人間の格好ではない。

「いるし」

「よかった。ちょっと聞いてほしいことあって」

ケンタはソファに座るより先にコンビニ袋を机に置き、アイスコーヒーのカップを取り出して一口飲んだ。

「部屋、引越そうと思って」

「今の部屋、どうした」

「いや、別に不満はないんだけど。3月4月って引越し繁忙期じゃん。業者費用も物件交渉も、あの時期は強気なんだよね。夏は需要が落ちるから、同じ部屋でも初期費用とか引越し料金が安く抑えやすくて」

「……調べたのか」

「フリーランスになってから、無駄な出費がちょっと気になるようになって」

大学時代から一人暮らしを続けてきたケンタが、繁忙期を外したタイミングで部屋を探しているらしい。それ自体は悪くない判断だ。

「で、気になる物件が見つかって、見積もり出してもらったんだけど……」

ケンタは少し顔をしかめた。

「なんか、変な感じがして」

ケンタ来訪

■ ケンタの「事件」

「物件自体はよかったんだよ。駅から徒歩12分、6万5千円、1Kで日当たり良好。写真も良かったし、内見も悪くなかった。だけど、見積もり出してもらったら……」

ケンタはスマホを取り出して、画面をコーキに向けた。

「これ、なに?」

画面には初期費用の内訳が並んでいた。

項目 金額
敷金(2ヶ月分)130,000円
礼金(2ヶ月分)130,000円
仲介手数料(1ヶ月分)65,000円
前家賃(1ヶ月分)65,000円
火災保険料20,000円
鍵交換費用20,000円
24時間サポート料(初年度)18,000円
消臭・抗菌施工30,000円
害虫駆除15,000円
合計493,000円

コーキは画面を一通り眺めた。

「何がおかしいと思った?」

「消臭・抗菌施工と害虫駆除。内見したとき、臭いも虫も気になってなかったのに、なんで4万5千円も払うの? って思って」

「正しい違和感だ」

「え、やっぱり変?」

「変な項目が複数ある。説明する」

ケンタ×見積もり

■ コーキの分析:引越しで「お金を抜かれる」3つの罠

引越しの初期費用は、知らないと言いなりになってしまう。費用の仕組みを知っておくだけで、数万円〜十数万円の差が出ることもある。

⚠️ 罠① 礼金・敷金・仲介手数料——「言われた金額」には法律と交渉の余地がある
礼金は「大家さんへのお礼」として慣習的に発生するが、法的根拠はなく、交渉次第で減額・ゼロにできる場合がある。礼金ゼロ・敷金ゼロの物件も増えている。敷金も「2ヶ月分」が当然ではなく、交渉で1ヶ月や0.5ヶ月になるケースがある。

見落としがちなのが仲介手数料だ。宅地建物取引業法(宅建業法)では、不動産会社が貸主と借主の双方から受け取れる仲介手数料の合計は「賃料の1ヶ月分+消費税」が上限と定められている。そのうち借主から受け取れるのは、原則として賃料の0.5ヶ月分+消費税までだ。

ただし、媒介の依頼を受ける際に借主の承諾を得ている場合は、貸主・借主双方から受け取る合計額の上限内で、借主負担が1ヶ月分+消費税までになることがある。契約前に金額と負担条件を確認し、納得できなければ0.5ヶ月分+消費税への変更を相談してみよう。
⚠️ 罠② 退去時の「原状回復費用」は全額借主負担ではない
退去時に「壁紙の張り替え・クリーニング代を全部払ってほしい」と言われるケースは後を絶たない。しかし国土交通省のガイドライン(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)では、通常の生活で生じた汚れ・傷の修繕は大家負担が原則だ。

借主が負担するのは、故意・過失による損傷や、契約書の特約欄に明示されている項目のみ。「全部借主負担です」という口頭の説明は、そのまま信じてはいけない。
⚠️ 罠③ 「必須」と言われる不要オプションを乗せてくる
消臭・抗菌施工、害虫駆除、24時間サポートなどは「任意オプション」であることが多い。しかし不動産会社によっては「うちは全室施工済みです」「管理規約で必須です」と言い、断れない雰囲気を作ることがある。

まず、その費用が任意のサービスなのか、貸主・管理会社が定めた契約条件なのかを確認する。不要なら外せるか相談し、「必須」と説明された場合は、契約書・重要事項説明書など根拠となる書面の提示を求めることが大切だ。

「ケンタの見積もりで変なのは複数ある。消臭・抗菌施工・害虫駆除・24時間サポートの3点は任意オプションの可能性が高い。それと——仲介手数料が1ヶ月分になってる」

「それって普通じゃないの?」

「借主から受け取れる仲介手数料は原則0.5ヶ月分+消費税までだ。媒介を依頼するときに借主が承諾している場合は、1ヶ月分+消費税までになることがある。契約前なら、負担額を確認して相談できる余地がある」

「……知らなかった」

「知らなければ払う。仕組みを知っていれば、交渉できる」

「……全部合わせると、いくらになる?」

「オプション3点が6万3千円、仲介手数料の差額が3万2千円。うまくいけば10万近く変わる」

ケンタはしばらく画面を見つめていた。

「なんで最初から言ってくれないんだろ」

「言われないと払ってくれるから」

「……なるほど」

コーキ×ケンタ説明シーン

■ ケイイチロウの一言

所長室のドアが静かに開いた。

🔍 ケイイチロウの一言

部屋を借りるのは、契約だ。感情で決めず、数字と書面で判断しろ

ドアが閉まった。

ケンタは少し口をつぐんで、スマホの画面をもう一度見た。

ケイイチロウの一言

■ 解決策:引越しの罠を避ける3つのステップ

引越しは金額が大きいだけに、少しの知識で数万円〜十数万円変わる。焦らず、順番に確認するだけでいい。

✅ ステップ① 複数の引越し業者と不動産会社の見積もりを比較する
一社だけで決めると、相場感がわからないまま契約してしまう。引越し費用も初期費用も、複数社を比較すれば大幅に削れるケースが多い

一括見積もりサービスを使えば、複数の引越し業者に同時に見積もりを依頼できる。価格比較が簡単にできるだけでなく、「うちだけの見積もりですよ」という圧力にも乗らずに済む。
✅ ステップ② 「原状回復ガイドライン」を手元に置いておく
国土交通省が公開している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、誰でも無料で確認できる。退去時に「全部払ってもらいます」と言われたとき、このガイドラインを示すだけで話が変わることがある。

入居前にガイドラインを確認し、入居時の傷・汚れは写真で記録しておくのが最大の自衛策だ

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✅ ステップ③ 契約書の「特約欄」を必ず読む
特約欄は見落としやすい場所に記載されていることが多い。ここに「退去時クリーニング費用は借主負担」と書かれていると、ガイドラインと異なっていても有効になる場合がある。

契約前に時間をとって特約欄を確認し、不明な点はその場で書面による回答を求める。口頭の説明は証拠にならない。

「写真、撮ってなかった」

「今からでも間に合う。契約前に撮れ」

「……わかった。ありがとう」

ケンタはスマホをしまいながら、少し表情が和らいだ。


■ ルリのまとめ

棚の上のルリが、今日は珍しく目を細めてケンタを眺めていた。

ルリのまとめ

📋 ルリのまとめ

  • ✅ 借主負担の仲介手数料は原則0.5ヶ月分+消費税まで——承諾の有無と契約条件を確認する
  • ✅ 退去時の原状回復費用は全額借主負担ではない——国土交通省のガイドラインを確認する
  • ✅ オプションは任意か契約条件かを確認する——必須と言われたら書面で根拠を求める

■ コーキの締め

ケンタがコンビニ袋を持って立ち上がりながら言った。

「サクラとヒロ、来てたんだって? 俺が紹介したから」

「来た」

「どんな感じだった?」

「二人とも、まじめに悩んでた」

「……そう」

ケンタは少し間を置いた。

「なんか、うれしいような。恥ずかしいような」

「何が?」

「俺が紹介して、ここで役に立ったんだなって」

コーキは少し間を置いた。

「ケンタも役立った」

「え」

「紹介したじゃないか」

ケンタは数秒固まってから、少しだけ笑った。

「……まあいっか、そういうことで」

ドアが閉まった。

コーキはコーヒーの最後の一口を飲み干した。

(まあいっかで動ける人間も、ちゃんといる場所がある)

窓の外、夏の日差しが真上から降り注いでいた。

次回:ヒロ、ブラック企業の内定に揺れる。

第15話:引越し費用を見直して笑顔になるケンタ

※物語パートに登場する人物・団体・学校名・地名・事務所名等は、特記のない限り創作上のものです。実在の人物・団体・地域とは関係ありません。


【ご注意】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法務・金融・投資助言ではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新情報と異なる場合があります。困ったときは、消費生活センター、自治体の住宅相談窓口、宅地建物取引業の担当部署などの公的・専門窓口にご相談ください。

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